『Dating Game』第3話で描かれた、ヒルとジュンジの初めてのデート。名所を巡る穏やかな時間の中で、ジュンジは終始落ち着いているように見える。けれど、物語の終盤、バッティングゲームでふと向けられた“意味深な見視線”が、観る者の心に引っかかる。あの視線は、恋に落ちた瞬間だったのか。それとも、もっと別の感情の兆しだったのか。本稿では、2人のデートを手がかりに、ジュンジの心の動きを丁寧に辿りながら、あの視線が生まれた理由を読み解いていく。
余裕が包むモデルデート──ジュンジがまだ“社長”でいられた時間
ゲームプランナーのヒルに最初に与えられたミッションは、ジュンジにチャットアプリの連絡先を教えてもらうことだった。社員ですら簡単に距離を詰められない相手に、どう近づけばいいのか。恋愛経験がほとんどなく、デートプランなど考えたこともないヒルにとって、この課題はあまりにも難易度が高い。しかも相手は同性だ。それでもヒルは投げ出さない。先輩のベイに相談しながら、何が正解か分からないまま、必死に考え抜く。
チャットアプリの連絡先を聞き出すための手段として、ヒルが選んだのはデートプランだった。“外国人”であるジュンジをもてなすため、タイの名所を巡るコースを用意する。ワット・アルン、カオサン通り、チャオプラヤー川のクルーズ。ヒルなりに考え抜いた“完璧なはず”のデートプランだ。だが、そのプランは、ジュンジにとって驚きのあるものではなかった。ワット・アルンも街歩きも、食事も、彼はすでに知っている。伝統衣装を着こなし、パッタイを手際よく作る姿からも分かるように、タイの文化や土地勘において、十分なほどに知識があるのだ。それでもジュンジは、何も言わない。「もっといい選択肢がある」とも、「効率が悪い」とも言わない。ここに、デート前半のジュンジの“余裕”がある。
象徴的なのが、デート序盤のワット・アルンだ。ほどけそうになったヒルの腰ひもを、ジュンジが結び直す場面。距離は近いが、そこに揺れはない。このときのジュンジは落ち着いていて、状況を把握し、静かに支える側にいる。ここではまだ、彼は“社長”の延長線上にいる。
しかし、デートが進むにつれて、空気は少しずつ変わっていく。カオサン通りで、ヒルが一生懸命に説明する様子を、ジュンジは楽しそうに聞いている。おそらく知っている話ばかりだ。それでも遮らない。ヒルが語ることそのものを、受け取っている。彼はこのデートの“全体像”を理解している。ミッションの意図も、ヒルの必死さも、ここで距離が縮まることも分かっている。それでも先回りしない。正解を教える代わりに、ヒルのペースを尊重する。仕事として理解しているからこそ、相手の必死さも分かる。ヒルのペースに巻き込まれていくことを、あえて選んでいるのだ。
デートの間、ジュンジは終始、ヒルを“導く側”ではなく、一歩引いた位置から見ている。歩く速度を合わせ、必要以上に前へ出ることはない。ヒルが説明を始めれば最後まで聞き、言葉に詰まっても口を挟まない。その態度は穏やかで、余裕がある。ヒルが差し出した時間を壊さないように、丁寧に受け取っているようにも見える。けれど同時に、どこか満たされきらない空気が、わずかに残っているように感じるのだ。
意味深な視線が生まれた瞬間──“制御しない選択”が距離を変えた
それは、このデートが“楽しくない”からではない。むしろ逆だ。ヒルがどれだけ考え抜いてこの時間を差し出しているかを、ジュンジは理解している。だからこそ、その誠実さを尊重し、壊さないように振る舞っている。けれど、その一方で、彼の中には別の欲求が芽生え始めている。それは、「どこへ行くか」ではなく、「ヒル自身をもっと知りたい」という感情だ。その違和感は、行き先を尋ねられたときのやり取りに表れる。
どこに行きたいかと聞かれたジュンジは、「まだ時間があるから、君に任せるよ」と答える。ヒルは困り、言葉に詰まる。そこでジュンジは、少しだけ間を置いてこう続ける。「どうして、君のお気に入りの場所に連れていかない?」この一言には、わずかな苛立ちが滲んでいる。ヒルが“正解のデート”を差し出そうとするほど、ジュンジはその裏側にあるもの――ヒル自身の好みや、価値観や、素の感情が見えなくなっていくことに、気づいてしまったからだ。名所を巡るデートは整っているが、そこにヒルの輪郭はまだ薄い。
そしてヒルは、自分のお気に入りの場所としてゲームセンターへとジュンジを連れていく。そこは観光名所でも、用意された“正解のデート”でもない。けれど、ヒルがよく知っている場所だからこそ、肩の力が抜ける。これまで必死に考え、背伸びをしていた時間とは違い、ゲームセンターではヒルの表情が柔らぐ。その変化を、ジュンジはすぐに感じ取る。思わず浮かべた小さな微笑みは、評価でも計算でもない。作られたデートではなく、ようやく“ふたりの時間”としてこの場を楽しめていると気づいた瞬間の表情だ。ここで初めて、デートは任務から解放され、感情の流れを持ちはじめる。そして、この場所こそが、後に訪れる決定的な転機への入口になっていく。
それが訪れたのは、バッティングゲームでのシーンだ。観ている側が「何かが変わった」と感じるのは、派手な演出があるからではない。ジュンジが、これまで纏ってきた“厳しい社長”という役割を、ここで手放しているからだ。そして、その変化は――意味深な視線、という形で、はっきりと表れる。
デートの終盤、バッティングゲームでのジュンジは、珍しく自分の不得意さを隠さない。バットの持ち方はぎこちなく、フォームも壊滅的だ。それを誤魔化そうともしないし、冗談にもしない。ただ、「得意じゃない」という事実を、そのまま差し出している。ヒルがジュンジの背後に回り、バットのフォームを直す。距離は一気に縮まり、ほとんど覆うような体勢になる。その瞬間、ジュンジは振り返る。ここで、あの意味深な視線が生まれる。
この視線は、何を意味したのか。これまでとは明らかに違う、ヒルを見る眼差しと空気。ヒルを見つめたあと、ジュンジは戸惑いの表情を見せる。自分でも分からぬうちに彼を見つめてしまう──。ワット・アルンでヒルの腰ひもを結び直すシーンも、確かに距離は近い。だが、視線の質はまったく違う。ワット・アルンでのジュンジは、あくまで“余裕のある側”だ。状況を完全に掌握している。距離は近くても、そこに揺らぎはない。
一方、バッティングゲームでのヒルへの視線には、これまでとは明らかに違う空気が流れている。そこにあるのは、計算も余裕も挟まらない、感情がそのまま表に出てしまった瞬間だ。不得意なことを隠さず、助けられる立場になる。それでも距離を取り直そうとせず、関係を元に戻そうともしない。そのままの位置に留まった人の視線だった。つまり、あの意味深な視線の正体は――感情を制御しなかったことにある。このときジュンジは、厳しい社長として振る舞うことも、優位な立場に戻ることも、「ここは仕事だ」と線を引くこともしていない。ただ、ヒルが作った時間の中に身を置き、その距離感を受け入れている。だからこそ、あの視線は印象に残る。
その視線は、ジュンジ自身もまだ意識していないまま、ヒルとの距離感が変わり始めてしまった瞬間を捉えていたように見える。社長として振る舞うことも、余裕を保つこともできたはずなのに、なぜか目が離せず、なぜか振り返ってしまう。その“理由のつかない視線”こそが、ヒルをこれまでとは違う位置で見始めてしまった証なのではないか。
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