黒木竜馬という人物を語るとき、まず浮かぶのは“献身”だ。誰かを守ると決めたら、その背中を静かに支え続ける。社員にも茉海恵にもいろはにも、そして薫にも、竜馬は揺るぎない姿勢で寄り添っていく。しかし――その献身はすべて同じではない。竜馬は同じ「守る」という行為をしながら、茉海恵と薫にまったく違う愛のかたちを向けている。その“二つの献身”の違いこそが、黒木竜馬というキャラクターの奥行きをつくり、視聴者を強く惹きつけてやまない。
“盾になる男”の覚悟——茉海恵に向ける揺るぎない愛のかたち
黒木竜馬という人物には、守るべきものが多い。会社、社員、茉海恵、いろは、そして薫。彼は大切に思う人に対して常に“自分が盾になる”というスタンスを崩さない。その一貫した姿勢こそが、竜馬というキャラクターの根っこにある。
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その姿勢は、茉海恵の周囲をめぐる場面で特に強く表れる。例えば、RAINBOWLABのメイン商品「虹汁」の旗艦店 itteki に立ち寄ったとき、竜馬は店内に茉海恵へ贈られた置物を見つける。店員の藤崎から、それが“ササエル”という人物から渡されたものだと聞かされた瞬間、竜馬の表情がわずかに変わる。「ササエルってやつが勘違いするといけないから言っとかないと」と、明らかに相手の存在を牽制するように言い、茉海恵へ近づく“未知の誰か”に対して強い警戒心をのぞかせる。
本橋に対しては、その姿勢がさらにストレートに表れる。茉海恵の元恋人であり、いろはの父親であると知った竜馬は、姿を現した本橋の前に無言で立ちはだかる。本橋が「なんですか?」と問いかけても、竜馬は視線もそらさずに「別に」とだけ言い放つ。その短い一言に込められた露骨な威嚇と圧は、“ここから先には踏み込ませない”という竜馬の意思そのものだった。やり方は決して荒々しくないが、どこからどう見ても「守ろうとしている」態度だ。それは過保護とも取れるほどの“愛の重さ”だが、竜馬の場合、その重さを決して相手に押し付けない。むしろ、それを 淡々と、さらりと、当然のようにやり遂げる。このさりげなさが、黒木竜馬という人物の魅力でもある。
ただ、茉海恵に向ける献身と、薫に向ける献身は、同じ“守る行為”で語れても、実際にはまったく質が違う。竜馬にとって茉海恵は、「支えるべき対象」であり、「背中を預ける相手」でもある。尊敬があり、信頼があり、長い時間をかけて築いた絆がある。薫に「茉海恵さんのことが好きなんですか?」と問われた竜馬は、少し考えてから、「はたから見たらそう見えることもあるかもしれないけど、僕たちは心でつながっている。ソウルメイトなんです」と熱く答える。周囲から見れば過保護にも映るその献身は、竜馬にとって“恋情”ではなく、長年ともに戦ってきた戦友への深い敬意と信頼の表れなのだ。
茉海恵を前にするときの竜馬は、「自分が支える」「自分が守る」という意思が迷いなく立ち上がる。そこにあるのは恋愛的な温度ではなく、仕事も人生もともに築いてきた相手に向ける揺るぎない覚悟。その一点のブレもない姿勢こそが、竜馬が茉海恵に向ける愛の“質”を形作っている。
薫にだけ見せる“もう一つの顔”——偽家族の中で変わっていく距離感
最初は偽ママの件に反対し、薫に対してもどこか敵意に近い距離感を保っていた竜馬。しかし、彼女の芯の強さや誠実さに触れるにつれ、明らかにその態度が変わっていく。そもそも竜馬は、偽ママ・偽パパという奇妙な状況に対して、最初は「茉海恵のために仕方なく付き合う」程度の、やや傍観者的な立場だった。だが、担任の佐々木に偽ママの正体がバレ、茉海恵・佐々木・薫がRAINBOW LABのオフィスで面談することになったあの場面。たまたま社内に居合わせた竜馬は、その空気を察して何も言わずに同席する。そして、佐々木が「茉海恵さんは母親としての責任を放棄している」と責め立てた瞬間、竜馬は一歩も引かず、「茉海恵が母親の責務を放棄したことは一度もありません」と断言する——あの一撃は、傍観者ではなく“家族側の人間”としての立ち位置に、竜馬自身がすでに踏み込んでいることを示していた。
この一連のやりとりは、茉海恵・薫・竜馬の三人が、すでにひとつの“偽家族”として連帯し始めていることを強く印象づける。そして、その連帯感の中でも、竜馬が薫に向ける感情には、どこか特別な温度が宿りはじめる。そのはじまりは、竜馬がヘッドハンティングの話に揺れ、バーで弱音を吐いた夜だった。「竜馬さんは、茉海恵さん以外の人を支えたいんですか?誰かに頼られないと、自分を信じられないんですか?」薫のまっすぐな言葉は、竜馬が意識していなかった“自分の弱さ”を正面から突くものだった。その一喝に、竜馬は一瞬で目を覚まし、同時に薫を見る目も変わっていく。
その後の竜馬は、薫のことを自然と“気にかける”ようになる。薫の母が入院したことを知ると、送り迎えを買って出たり、病院で退屈しないよう漫画を貸したり、ひとりでがんの手術に向かった母の気持ちに気づけなかった薫が落ち込んだときには、気分転換にランニングへ連れ出すなど、距離感を詰めるのではなく、“必要だと思うところだけに手をさしのべる” スタイルで寄り添っていく。
薫は、偽ママのことを母へ正直に伝えた際、「そんなことをさせるためにここまで育ててきたわけじゃない」と拒絶され、病室を飛び出してしまう。その先にいたのが、竜馬だった。「なんでまたいるの」と泣きながら言う薫に、竜馬は静かに「薫さんが心配だったから」と答える。母に受け入れてもらえず、感情があふれて崩れ落ちた薫を、竜馬は迷わず抱きしめる。そこには、茉海恵の前で見せる“揺らがない支え方”とは異なる、“放っておけないという真っ直ぐな想い” があった。
茉海恵に対しては常に冷静で、スマートに立ち回れる竜馬。しかし、薫のこととなると、そのスマートさがどこかで崩れ、急に“人間らしい不器用さ”があらわになる。手が触れただけで慌てたり、言葉を探して沈黙してしまったりする——そんな竜馬が、このときは目の前で涙をこぼす薫を前に、迷う間もなく抱きしめた。母に受け入れてもらえず、感情があふれて崩れ落ちた薫に対して、竜馬は“スマートに”でも“完璧に”でもないが、ただ「放っておけない」という衝動のままに手を伸ばしたのだ。その一瞬に宿っていたのは、茉海恵の前では決して見せない種類の、まっすぐで温度のある想いだった。
茉海恵のことも薫のことも、はたから見ればどちらにも「献身的」に寄り添っているように映る。2人を守ろうとする姿勢は一貫しているのに、その根にある愛の質は異なる。茉海恵には、長い時間で育まれた責任と信頼に裏打ちされた覚悟の愛を。薫には、その生き方や強さに心を動かされた結果として自然と向けてしまう、あたたかい愛を。その温度差こそが、黒木竜馬というキャラクターの第二の二面性であり、視聴者が彼に強く惹かれる理由なのではないか。




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