「LOVE SONG」はソウタにとって何だったのか——未完がつないだ6年分の想い

邦画

本作最大のハイライトであるカイのライブシーン。あれほど“完成した曲”を待ち望んでいたソウタは、なぜあの日、ライブに遅れて行ったのか。そして——2人をつないできた未完成の「LOVE SONG」は、ソウタにとってどんな存在だったのか。本稿では、彼がライブに遅れて行った理由、「LOVE SONG」が彼の心に残してきた意味、この2つを軸に、ソウタの深層心理を掘り下げていく。

なぜソウタはライブに「遅れて」行ったのか —— その裏にあった“答えに触れたくない気持ち”

タイでカイと再会した後、ソウタは通訳のルークから「カイがライブで長年未完成だったLOVE SONGを披露する」と聞かされる。この話を聞いた瞬間、ソウタは驚くほど動揺する。その後、カイについて語るルークの声は、ほとんど耳に入っていない様子だ。車窓の外を見つめ、涙をこらえるように目を伏せる姿は、ただの“切なさ”では説明しきれない。直前、スマイルと“いい感じ”の雰囲気を見せるカイに胸が苦しくなったのは確かだ。だがソウタを揺さぶったのは、それだけではない。

“未完のラブソングがついに発表される”——その事実こそが、ソウタにとっては何より衝撃だった。

——ずっと聞きたかったはずの曲なのに。
——ずっと知りたかったはずの“カイの言葉”なのに。

なぜソウタは、あんなにも苦しそうだったのか。答えはひとつ。LOVE SONGを聞いてしまったら、「6年前の答え」がすべて分かってしまうからだ。カイが自分に何も言わず突然消えた理由。置き去りにされた“あの日”の痛み。6年間、ソウタはその答えの前で立ち尽くしてきた。

でも、カイはソウタに何も言っていない。“別れ”を宣言したわけでも、“他の誰かを選んだ”とも言っていない。だからこそ、カイの曲が“未完成のまま”だったことだけが、ソウタの救いだった。カイがいなくなったあと、曲も途中のまま——。その「未完」は、ソウタにとってこんな意味を持っていた。

“まだ完全には終わっていない”“もしかしたら、どこかで続きがあるのかもしれない”

つまり、“未完のまま”でいてくれることが、ソウタにとっては 「カイとの関係が完全には切れていない証」 だったのだ。だからこそ、LOVE SONGが完成し、カイ自身の声で歌われるという事実は、6年前の痛みの“答え合わせ”に向き合うということ。曲を聴いてしまえば、もう後戻りはできない。「好きだった」「でも選ばれなかった」その残酷さを、自分の耳で受け止めることになる。だから、ソウタはライブにすぐには行けなかった。

行きたい。
でも、行きたくない。

カイに会いたい。
でも、カイとの“終わり”を知りたくない。

ライブに遅れたのは偶然ではなく、ソウタの心がギリギリのところで揺れていた証だった。頭では「この曲はユキのことを想って書いたものだ」と理解している。けれど心は、それをどうしても認めようとしなかった。認めてしまえば、“未完”にしがみついていた自分ごと崩れてしまうからだ。

カイにとって音楽を続けることが、ソウタとの繋がりを失わないための祈りのような行為だったのだとしたら——ソウタにとっての「未完のLOVE SONG」もまた、カイとまだ繋がっていると感じられる唯一のよりどころだったのだと思う。だからこそ、曲が完成し、ステージで歌われるという現実は、ソウタにとって “6年前の答えを突きつけられる瞬間” に等しかった。

LOVE SONGが導いた“ソウタの答え”——未完だった想いが完成する瞬間

完成する前のLOVE SONGを、ソウタは何度も何度も聴いていた。落ち着かないとき、気持ちを整理したいとき、まるで“精神安定剤”のように、この曲に寄りかかっていた。しかし——あの曲が “自分に向けられた告白” だと分かった瞬間から、ソウタがLOVE SONGを聴く場面はほとんど描かれなくなる。

ソウタがLOVE SONGを聞いたのは、ヒカリから「カイの曲がアップされた」と連絡を受けた際に再生したシーンのみだ。これまでのソウタであれば、引っ越したあとのカイの家を訪れた場面でLOVE SONGを聞いているのが自然だ。

その変化は偶然ではない。この時期のソウタは、前回の記事でも触れたように、“自分を好きだと言ってくれたカイ” と、“本心を明かさないまま消えてしまうカイ” のあいだで揺れ続けていた。カイの想いを知っても、カイの行動は理解できない。そのズレが、ソウタにとっては途方もなく大きな“壁”になっていた。だからこそ、本能的にLOVE SONGを真正面から聴くことができなかったのではないか。

アップされたLOVE SONGを聞いたソウタが微笑んでいたことから、無理にこの曲を避けていたようには思わない。しかし無意識に、いつも聞いていたLOVE SONGを避けてしまっていたように感じる。“愛されていた事実” と “本心に触れられない壁” が、同時に胸を締めつけてしまうから。

そんなソウタを決定的に動かしたのが、帰国後、ヒカリのスマホから流れた、あのLOVE SONGだった。ソウタはこの曲から目をそらしていた。無意識のうちに耳に入れないことで心を守っていた。

——なのに。ヒカリのスマホから流れたカイの声は、そんなソウタの防波堤を一瞬で越えてきた。不意打ちのように、気持ちの準備もないまま、まっすぐ胸に飛び込んできたその歌声。それは、ソウタが避けていた“痛み”ではなく、ただ純粋なカイの気持ちとして届いた。

混じりけのない、飾られていない、6年間ずっと胸の奥に抱え続けていた想いが、そのままの形でソウタに届いたのだ。初めて、素直に受け止めてしまった。これは“自分への告白だったのだ”と。

だから——ソウタは動いた。もう逃げられなかった。もう誤魔化せなかった。カイがあれほどまっすぐな言葉を、言葉の代わりに歌で残してくれたのなら。今度は自分の番だ。ソウタは、タイへもう一度戻ってきた理由をこう言っている。「探しているものが、見つかる気がして」

これは“カイを探していた”という意味ではない。“好きだと言える自分になりたかった”ということだ。自分に嘘をつかないために。あの日の後悔を繰り返さないために。そして、カイが6年間かけて向き合ってくれた想いに、初めて自分もまっすぐ応えたいと思えたから。

カイのLOVE SONGは、ソウタにとって“聞けなかった歌”ではなく、ようやく受け止めることができた愛の形だったのだ。

よしはらゆう

映画と韓国ドラマが大好き。普段は小さな新聞社で記者をしています。好きな映画のジャンルはスパイ映画、好きな監督はクリストファー・ノーラン。

よしはらゆうをフォローする
邦画
シェアする

コメント

タイトルとURLをコピーしました