『フェイクマミー』の黒木竜馬という人物は、ただの“頼れる部下”では終わらない。仕事では冷静で判断が速く、茉海恵のそばで先回りして動く“完璧な右腕”。それでいて、ふとした瞬間に涙もろさや不器用さがのぞき、隙が生まれる。その振れ幅こそが、黒木竜馬の魅力だ。“強さ”と“脆さ”、どちらも併せ持つからこそ、彼の存在に深みが宿る。この記事では、黒木竜馬というキャラクターが放つ独特の魅力を、物語の中で見せる二面性を軸に紐といていく。
黒木竜馬の魅力——“支える側”に宿るスマートさと責任感
黒木竜馬は、RAINBOW LABの副社長として茉海恵とともに会社を立ち上げた人物だ。育児をしながら仕事を続けることに限界を感じていた茉海恵に、「自分たちで会社をやろう」と声をかけたのも竜馬である。元ヤンキーという過去を持ちながら、今は冷静さと責任感を備えた経営幹部として会社の舵取りを担うキャラクターだ。
ただの「副社長」という肩書きで語りきれないのが、竜馬のスマートさだ。彼はよく「社員とその家族の人生まで背負っている」と口にする。これは単なるきれいごとではなく、“自分たちが背負う責任の重さ”を理解したうえで、それを真正面から受け止めているという宣言だ。会社を動かす人間として、社員の生活も家族の人生も含めて守るつもりでいる。その覚悟が、竜馬というキャラクターに揺るぎない強さを与えている。
この“責任感の強さ”は、物語の要所で際立つ。薫がいろはの担任教師・佐々木との面談で追い詰められた場面。竜馬が絶妙なタイミングで現れ、状況を瞬時に把握して、最適な形で立て直す。判断の速さと無駄のない立ち回りが際立つシーンだが、ただ助けるだけでは終わらない。竜馬はその場のあと、「上場前のこの時期に偽ママなんて危険な橋を渡らないでほしい」と、薫に対してはっきりと反対の意思を伝える。彼は薫の行動に賛同していない。それでも、目の前のピンチを救うために“完璧な偽パパ”を演じ切る。この「納得していなくてもやるべきことはやる」というプロフェッショナルな振る舞いが、黒木竜馬の魅力である。
直近で向井康二はタイのドラマ『Dating Game〜口説いてもいいですか、ボス!?〜』でオンラインゲーム会社の社長ジュンジを演じている。ジュンジは“会社を率いる側のトップ”としてのカリスマ性や孤高さを帯びていたが、黒木竜馬はその逆で、“支える側”としての美学が際立つキャラクターだ。竜馬は主役ではなく、中心でもなく、「背中を預けられる存在」として完璧に立ち続ける。社長と副社長という立場の違いは、向井康二が役によって纏う“佇まい”の変化として現れ、ジュンジでは見せなかった “支える側の落ち着き・覚悟・柔らかさ” が、黒木竜馬という役で鮮明に浮かび上がる。
完璧な立ち姿の裏にある意外なギャップ
黒木竜馬の魅力が最も際立つのは、完璧に仕事をこなすスマートな副社長像の裏側に、ふと“人間らしさ”がのぞく瞬間だ。ふとした表情の緩み、感情を隠しきれない言動——そんな一瞬一瞬が、黒木竜馬というキャラクターをより立体的にしていく。
茉海恵が自分を頼りにしてくれている——竜馬はどこかでそう感じていた。しかし、茉海恵がほかの部下に仕事を任せている場面を偶然目撃し、心がわずかに揺れる。その心の揺らぎが、ヘッドハンティング会社から届いたメールにふと気持ちを向けさせ、最初は警戒していた薫を食事に誘う行動へとつながっていく。その席で竜馬は、「自分が必要とされる場所で働きたい」と本音を漏らす。忠実で落ち着いた副社長としての一面とは異なる、“認められたい・求められたい”という人間としての欲求が静かに浮かび上がる瞬間だ。ここにこそ、竜馬という人物の“熱”がある。
さらに、酒に弱くてすぐ酔っ払ってしまう姿や、RAINBOWLABの上場が決まり、お祝いの場で涙をこぼす姿も、普段の“副社長としての立ち姿”とまったく違う温度を帯びている。冷静沈着に見える竜馬の内側には、驚くほど情に厚く、喜びや悔しさがストレートに表情へ溢れ出てしまう一面がある。
上場の祝いのシーンでは、普段なら淡々と状況整理を行い、社員の前では感情を前面に出すことはない竜馬が、あの瞬間だけは言葉より先に涙が落ちた。会社がここまで辿り着くまでの道のり、茉海恵と積み重ねてきた日々、社員の努力。そのすべてが胸に迫ってきたのだろう。普段との温度差が大きいからこそ、視聴者はこの“涙”に竜馬という人物の深さを感じ取る。
また、彼が酒に弱いという事実も、竜馬のギャップを強く印象づける要素だ。職場ではどんなトラブルにも瞬時に対応できるのに、酔うと目が虚ろになり、言葉が少し乱れる。その“完璧に見える男のほころび”が、むしろ視聴者にとって愛しさを生む。冷静さや判断力とは裏腹に、嬉しいことや悲しいことがあるとすぐ顔に出てしまう不器用さ——その繊細さが、竜馬をただの「できる副社長」ではなく、人間として立体的に感じさせる最大の要因となっている。
竜馬には、揺らがない強さもあるが、同じくらい素直な人間らしさもある。この振れ幅が大きいほど、視聴者は彼という人物の“内側”に触れたような感覚を覚え、ますます惹きつけられてしまうのだ。
そしてこの“ギャップ”の魅力は、内面だけではなく、ビジュアルにもくっきりと現れる。仕事の日の竜馬は、視線ひとつ、歩き方ひとつまでまっすぐで、前髪を上げて額を見せ、スーツを端正に着こなした“副社長の顔”をしている。常に現場全体を見渡し、責任を背負う者の風格をまとっている。その佇まいだけで「この人になら任せられる」と思わせる安心感がある。
一方で休日の竜馬は、まるで別人のように柔らかい。前髪をおろして緊張感のほどけた目元は、仕事中の鋭さではなく、どこか無防備な空気を纏っている。カジュアルなリングやネックレス、ラフなシャツ、デニムなど、オフモードのファッションは生活感と親しみやすさがにじみ、“副社長”という肩書を忘れてしまうほど自然体だ。視覚的なスイッチの切り替わりが、さらに竜馬の二面性を鮮明にする。
竜馬の“休日の表情”は、職場では見せないような柔らかさがにじみ、「こんな顔をするんだ」と視聴者をドキッとさせる。オンとオフ、そのどちらも嘘ではなく、どちらも竜馬の一部。だが、その落差が大きければ大きいほど、竜馬の“内側”を覗き込んだような錯覚を覚え、キャラクターの魅力が何倍にも膨らんでいく。
スマートさと人間らしさ。冷静さと熱さ。強さと不器用さ。この反対に見えるものが、どれも同じ人物の中に同時に存在している——その事実こそが、黒木竜馬というキャラクターの最大のギャップであり、視聴者が彼に強く惹かれる理由なのだ。





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