『フェイクマミー』薫が偽ママという役割を越えた瞬間──竜馬に託した想いと守りたい未来

日本ドラマ

偽ママの罪を一人で背負った薫の“嘘”は、誰かを守るための嘘だった。契約で始まった関係は、彼女の中でいつしか“家族”へと変わり、最後に託す相手として選んだのは竜馬だった。屋上で伝えた「心強かったです、ずっと」という言葉に隠された本心とは何なのか。そして、薫がそこまでして守りたかった“未来”とは何だったのか。本稿では、9話ラストを手がかりに、薫の覚悟と心の転換を深掘りする。

「心強かったです、ずっと」その言葉に隠された薫の本心

9話のラスト、薫は弁明説明会の場で、自分こそが“偽ママ”であり、茉海恵を脅して母親のふりをしたのだ——と、まったくの嘘を並べて釈明した。視聴者にとっては衝撃的な展開だったが、明白なのは、その嘘が“家族を守るための嘘”だったということだ。薫は茉海恵の名誉を守り、いろはの日常を守り、RAINBOW LABを守り、そして竜馬を守るために、自分ひとりが悪者になる道を選んだ。

しかし思い返せばその数日前、偽ママの存在がマスコミに露呈し、茉海恵が「すべてを話して謝罪する」と口にした瞬間、薫は静かにこう言っていた。「偽ママをやり通しましょう。」一見すると、ラストの“自分だけが罪を被る”という行動と正反対だ。しかし、そこには矛盾ではなく“計算された覚悟”があったように見える。

——おそらくあの時、薫はすでに決めていたのだ。「最後は自分が一人で罪を被る。それでもみんなの日常だけは守りたい」ということを。だからこそ、あの「偽ママをやり通しましょう」という言葉は、仲間を鼓舞するための言葉であると同時に、“自分が代わりに前に立つ。その瞬間までは、どうか安心していてほしい”という薫なりの“優しい嘘”でもあったのだろう。

そして——その計画の最後に必要だったのが、ただ一人、竜馬への共有だった。説明会の直前、薫は竜馬を屋上へ呼び出す。それは、以前竜馬が「お気に入りの場所」として薫を案内した、二人が初めて心を開いた場所。薫は、あの時の空気を思い出すかのように、息を吸ってこう言う。「私は、竜馬さんがいてくれて心強かったです。ずっと。」

この言葉は、竜馬に言われた「俺って頼りないですか?」への答えに聞こえるが——それだけではない。 その裏には、「茉海恵さんと、いろはさんをお願いします」という、声にならない“託す思い”が確かにあったように見える。

薫は自分だけが責任を負うことを決めていた。そして、茉海恵といろはの未来を守れる人間は誰か、と考えたとき——その答えは、竜馬しかいなかった。竜馬が迷わず盾になる人間だと知っているから。彼の誠実さも、不器用さも、弱さも、優しさも全部見てきたから。最後に託すなら、この人しかいない。薫はそう信じていたのだろう。竜馬も、それを本能的に感じ取っていたのではないだろうか。「それを言うためだけに呼び出したんですか?」と問いかけながらも、薫の目の奥に宿る“決意”を読み取り、言いたいことを飲み込み、ただ受け止めた。

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薫が「私、行きます」と告げた瞬間、竜馬はわずかに何かを言いかけるような表情を見せながらも、最後には何も言わずその選択を飲み込んだ。引き止めたいのに引き止めない——何かを決意した様子の薫に不安を覚えながらも、それは、竜馬なりの“尊重”であり、“信頼の返答”だったのではないだろうか。

契約が“家族”へ変わるまで──薫の心に起きた静かな転換

契約から始まったはずの関係が、いつの間にか家族のような輪郭を帯びはじめていた。しかし、薫があれほどの覚悟をもって“ひとりで罪を被ろう”と決めた根底には、もっと具体的で強い想いがあった。それが──いろはの未来を守りたいという願いだ。

物語中盤、薫は会話の中でこう語っている。「私は、いろはさんが宇宙に行く姿を見たいんです」これは、薫が初めて“願い”を口にした瞬間だった。母親役という契約でもなく、仕事としての役割でもなく、まして責任感からの発言でもない。いろはという一人の子の未来を、本気で信じたいと思った“感情の言葉”だった。

その言葉に、竜馬は静かに応じる。「僕もいろはが宇宙に行くところ見たいです。一応、父親なんで」この「一応」は照れ隠しであり、同時に竜馬なりの宣言だった。 血のつながりはなくても、俺はこの子の未来を本気で見届けたい。偽パパと偽ママという建前の裏で、二人は“家族としての願い”を共有していた。

優秀で要領のいい薫はこれまで、「自分でやります」「ひとりで大丈夫です」——そう言って、周囲に頼るよりも、自力で結果を出してきた。それが薫の生き方であり、同時に“弱さを見せないための鎧”でもあった。

しかしRAINBOW LABに入り、茉海恵やいろはと向き合ううちに、薫は初めて気づく。家族というのは、一人ですべて背負う存在ではないのだ、と。茉海恵を見ていると、それがよく分かる。完璧に見える彼女も、実は人に頼り、助けられながら前に進んでいる。“母親に求められるハードルが高すぎる”こと、そして“周囲に頼ることは無責任ではない”という事実を、薫は少しずつ理解していく。さらに竜馬からも、「もっと頼っていい」というメッセージを度々受け取る。薫の孤独な働き方、生き方を見抜いたうえで発されるその言葉は、彼女の中の硬い殻を少しずつ溶かしていった。

“ひとりで背負う人生”から、“誰かと支え合う関係性”へ。薫はその転換点に、確かに立っていた。ひとりで罪を被ったその決断は、意地でも責任感でもない。自分は“家族を守る側”に立つと決めた意思表示だった。それは“誰にも迷惑をかけたくない”といういつもの彼女の癖ではなく、大切だと思える相手を守りたいという、家族的な情の発露に近かった。そして薫は、たどり着いたのだと思う。偽ママという“仕事”は、いつの間にか“守りたい家族”に変わってしまっていたのだと。

物語はいよいよ最終回を迎える。血のつながりではなく、利害から始まった4人の関係は、これからどんな形に着地するのか。“役割”としての母、“契約”としての家族——そして、お互いが補いあう存在へ。家族とは何で決まるのか。誰と、どんな瞬間を重ねれば“家族”と呼べるのか。薫の決断は、その問いへのひとつの答えを提示しながら、同時に視聴者に大きな余白を残している。最終回で彼女がどんな言葉を発し、どんな選択をするのか——彼女自身が気づきはじめた“新しい家族のかたち”の行方を、静かに見届けたい。

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